仏教を知るためのおススメ6冊ご紹介

書評

日本のみならずアジア全域で大きな影響力を持つ宗教、それが仏教です。私たちは知らず知らずのうちに仏教的な考え方を身につけています。

好むと好まざるとにかかわらず、私たちは仏教的世界に生きています。人生観や世界観が仏教的な色どりを持っているのです。

仏教について知ることは、私たち自身を見つめなおすことでもあります。今回は、仏教に関する名著をご紹介していきたいと思います。

仏教とは

仏教とは何か?というのはあまりにも大きな問いですので、ここでは他宗教との違いに注目したいと思います。

よく仏教はキリスト教・イスラム教と並んで「世界三大宗教」の一つと言われたりしますが、キリスト教とイスラム教と同列に論じるのは適切ではありません。

なぜなら、キリスト教・イスラム教は啓示宗教であるのに対し、仏教はそうではないからです。

では啓示宗教とは何いでしょう。

啓示宗教とは、絶対神などの人間を超えた存在からのメッセージが教えの核となっている宗教のことです。イスラム教ではムハンマドはアッラーの言葉を伝える「預言者」ですし、キリスト教はイエスが神であり救世主(キリスト)です。

仏教はそういった人間を超えた存在(神)を必要としません。あくまで人間の合理精神を武器に世界を探求し、人間存在の秘密に迫っていく、宗教というより哲学的傾向の強い宗教といえるでしょう。ニーチェが仏教を「精神衛生学」と呼んだのは言い得て妙です。

つまり、仏教に近づくには私たちの合理的精神だけがあればよい、ということになります。

しかし、長い歴史のなかで、数えきれないほどの優秀な人材が仏教徒としての思索を深め、それぞれに極限まで考えつくした結果、仏教はきわめて多くの高峰をもつ一大山脈のような様相を呈してきたのです。

素人としては、どこから手を付けていいのか、どの山を目指すべきなのか、まったく見当もつかず途方に暮れてしまうのが正直なところです。

そこで必要になるのが簡単なガイドブックです。仏教の山々に遭難しないための準備といったところでしょうか。山登りに必要なのは装備と事前の準備でしょう。

以下、私が読んで面白かった参考書をいくつかご紹介していきます。

呉智英「つぎはぎ仏教入門」

まずは呉智英氏の名著「つぎはぎ仏教入門」からです。文庫本で240ページ弱、「宗教とは何か」から説き起こし、仏教、釈迦の教え、仏教史の紹介、現代における仏教など、手際よくまとめられてます。

仏教について無知な人でも理解できるように工夫されています。時おり挿入されているコラムも楽しい読み物となっています。

タイトルにもあるように本書は入門書なのですが、よく読んでいけば著者は読者を非常に深いところまで連れていこうとしているのがわかるはずです。付いてこれるこなら付いてこい、そんな挑発さえ感じます。

いずれにしても、これほど求めやすく深い仏教入門書はめったにあるものではありません。ぜひ多くの方に手に取っていただきたいと思います。

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水野弘元「仏教用語の基礎知識」

仏教を研究するなら必須の名著です。仏教に親しむうえで障害となるのが仏教用語です。

長い歴史のなかで生み出された数々の仏教用語は仏教理解のうえでつまづきの石となるのです。

本書は仏教用語の基本的知識を得るには最適な本です。もちろん、頭から読み通す必要はありません。

巻末には索引がありますから、知りたい用語を調べるツールとして使えばいいと思います。

ぜひ本棚に収めておいて、必要なときにすぐ参照できるようにしておきたい名著です。

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岩波仏教辞典

これはぜひ手元においておきたい一冊です。仏教用語から人名まで大概のことはこれ一冊で間に合います。

仏教用語で対応するサンスクリット語やパーリ語があれば、そちらも掲載されていますし、巻末の索引ではサンスクリット語・パーリ語からの検索もできます。

たとえば、「天上天下唯我独尊 てんじょうてんげゆいがどくそん」という言葉がありますが、この言葉を調べてみると対応するパーリ語も一緒に載っています。ちなみにパーリ語では「aggo’ham asmi lokassa」というそうです。

非常に便利な本ですのでぜひ本棚に置いておきたいところですが、ネックなのはそれなりに高額な点です。

一度読んで終わりというタイプの本ではないので、思い切って買っておくのがいいかなと思います。

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凝然大徳「八宗綱要」

凝然(1240~1321)という人が書いた仏教概論で、古くから入門書としてよく読まれていた作品です。

「八宗」というのは、俱舎宗・成実宗・律宗・法相宗・三論宗・華厳宗のいわゆる南都六宗と、天台宗・真言宗の平安二宗のあわせて八宗です。

巻末に「付章」として禅宗と浄土宗に少しだけ言及しています。

本書は凝然の原文と読み下し文、語義と現代語訳で構成されており、文庫本ですが非常に充実した内容となっています。

凝然29歳の作だそうですが、これほど見事な八宗の概論をかけるというのは並大抵のことではないと感心します。ぜひ一度手に取って読んでみてください。

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中村元・三枝充悳「バウッダ」

中村元・三枝充悳両氏の共著という形ではありますが、ほぼほぼ三枝氏の作品といってもいいのではないでしょうか。本書は仏教に関心をもつひとなら必読ともいえる名著です。

内容は仏教概論ですが、特に重要なのは阿含経典を論じた第二部でしょう。

なぜ仏教には膨大な経典群があるのか、仏陀が説いたことになっているこれらの経典はどこまで仏陀の肉声を伝えているのか、仏陀自身の思想はどこまで正確に特定できるのか、こういった点を解き明かす拠りどころとなるのが「阿含経典」なのです。

詳細は本書を読んでいただくしかないのですが、一点だけ強調すれば、仏陀本人の思想を跡付けるのに私たちがよすがとすべきものは「阿含経典」しかないのが実情です。

いわゆる大乗仏典は、歴史上の仏陀が説いたものではありえない、というのが結論なのです。

いわゆる大乗仏教は仏陀が説いたものではないという「大乗非仏説」です。

そして文献学的見地からいえば、大乗仏典は100%仏陀に仮託して後世に作られた経典群であり、「大乗非仏説」は単なる事実として疑問の余地がありません。

この議論について深く知りたい方は本書をひもといてください。さまざまな疑問が氷解すると思います。

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宮元啓一「ミリンダ王の問い」

有名な「ミリンダ王の問い」の新訳です。旧訳は東洋文庫で3冊でしたが、宮元訳は1冊にまとめられています。

内容についてはいわずもがなですが、簡単に説明すると、ミリンダ王と聖者ナーガセーナの対話篇です。ミリンダ王はバクトリア王国の国王であり、ギリシャ系の人物で正確には「メナンドロス」だそうですが、インドでは「ミリンダ」として知られています。

このミリンダ王と仏教徒のナーガセーナが「空」や「輪廻」、「意識」や「因果応報」など様々なトピックについて議論を交わします。特に有名なのは第1章冒頭にある「名称と自己」についての対論です。

自己の実体というものは存在しないと説くナーガセーナは車を例に挙げて王を説得します。「車」のどの部分が「車」なのか、「軸」がそうなのか、「輪」がそうなのか、「基盤」がそうなのか、「止棒」か、このように「車」を分解していっても「車」の実体というものは見出せません。

私たち人間も同じく「自己」というのものの実体は存在しないのです。

この「ミリンダ王の問い」は長編ですが、平易な日本語で誰でも抵抗なく仏典に親しめる優れた作品です。ぜひ一度目を通してみてください。

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