英語を日本語とともに読む 対訳本おススメ5選

書評

外国語を学ぶ楽しさの一つは、いい文章を原文で読めるようになることです。

もちろん、スラスラと読めるようになるには長い時間が必要です。そう簡単なことではありません。

辞書を引き引きかろうじて読める、多くの方がそういう状態ではないでしょうか。

しかし、外国語学習では優れた文章を多く読むことがどうしても必要です。概して例文というのは無味乾燥でつまらない文章ですからね。

生き生きとした文章を読むことで、その言語の本領に触れることが何よりも大切です。

今回は、対訳本をご紹介していきます。英語と日本語訳が併記されている対訳本は非常に便利です。

英文でわからないときは日本語訳を参照すればいいので、読書がはかどります。

おススメの対訳本を5冊にしぼりましたので、順番に見ていきましょう。

対訳ヘミングウェイ2 「現代作家シリーズ51」

まずは南雲堂の「現代作家シリーズ」からです。

このシリーズはページ見開きの左側が原文、右側が日本語訳という構成になっています。

この「対訳ヘミングウェイ2」に収録されている作品はヘミングウェイ後期の傑作「老人と海」です。

サンチャゴという老人の漁師と大魚との格闘、そして大魚を襲いにきたサメとの闘いをえがいた名作です。ヘミングウェイの文章は非常に簡潔で、英語初心者でもあまりストレスを感じずに読み進めることができると思います。

むしろ、ヘミングウェイの原文で英語の文法を学べばいいのではないか、と考えていたらもうそういう本もすでにありました(「ヘミングウェイで学ぶ英文法」)。

英語の勉強にもなり、さらに英語のクラシックも楽しめるのですからまさに一石二鳥です。

ぜひ、この「現代作家シリーズ」でヘミングウェイを楽しんでほしいと思います。

対訳オーウェル2 「現代作家シリーズ12」

同じ「現代作家シリーズ」からジョージ・オーウェルのエッセイ集を紹介します。

「動物農場」や「1984」などの全体主義を告発した小説によって今なお多くの読者をもつオーウェルのエッセイが英語と日本語で読めます。本作に収録されているのは、


・象を撃つ
・絞首刑
・貧しきものの最期
・イギリス人


などの有名な作品です。オーウェルの文章の印象は「正確さ」です。きっちりした英語を書くイメージがあります。そのため、ともすれば平凡・単純に感じることもありますが、正しい英語の使い方を学ぶという点では最高の教材です。


とくにオーウェルの作家としての誠実さは他に類を見ないもので、それは「象を撃つ」や「絞首刑」などの短いエッセイを読むだけでもわかります。

「正確さ」と「誠実さ」はオーウェルにとって切っても切れないものだったのでしょう。ぜひ本書で「象を撃つ」「絞首刑」の2編を英語で読んでみてください。

対訳 武士道(講談社バイリンガル・ブックス)

ここからは、日本人が英語で書いた作品をご紹介します。

まずは新渡戸稲造の有名な作品「武士道」です。新渡戸稲造は盛岡市で武士の家に生まれ、札幌農学校で内村鑑三と同期でした。農学者として台湾でも活躍し、戦前の国際連盟で事務次長をつとめた国際人でもあります。

その新渡戸が英文でものしたのが「武士道」です。

同じく武家出身である森鴎外は母親から、「お前は武士の子どもなのだから、いざとなれば切腹できるようでなければならない」と教育されたそうですが、新渡戸稲造もまた封建道徳のもとで育てられた生粋の武士です。現在のコスプレ「侍」とはわけが違います。

「武士道」で新渡戸が語る武士の姿はもちろん理想の武士の姿には違いありませんが、まぎれもなく新渡戸にとってのバックボーンなのです。

弛緩してしまった我々現代人とは比べものにならないのです。

日本人なら一度は読んでおきたい名著といえるでしょう。

なお、新渡戸の英文はトーマス・カーライルの「衣装哲学」の影響が著しいとはよく言われることですが、実際に「衣装哲学」を原文で読んでみると確かに両者の文体は似ています。

ただ新渡戸の英文の方がはるかにマイルドですが。

対訳・代表的日本人

内村鑑三の名著「代表的日本人」の対訳です。新渡戸の英文もいいですが、私個人としては内村鑑三の英文の方が好きです。本書は5人の日本人の伝記集です。

取り上げられた日本人とは、


・西郷隆盛
・上杉鷹山
・二宮尊徳
・中江藤樹
・日蓮上人


の5人です。日本人にとってはおなじみの人物たちです。

一時期は上杉鷹山がずいぶんクローズアップされましたが、最近は二宮尊徳が静かなブームになっているようですね。

これら5人の人物たちを通じて、内村鑑三の日本に対する熱い想いがほとばしります。

内村の文章は非常にパッショネイトなもので、読んでいて勇気が湧いてくるというか、元気づけられるというか、とにかく心を動かされます。

少なくとも、読者は内村がとり上げたこの5人に対して好感をもつことでしょう。

私個人としては中江藤樹が非常に忘れがたい。「We knew that might is not right,」などという一文はいまでもよく覚えています。内村の文章は名言の宝庫でもあるのです。

ぜひ皆さんも本書を通じて内村の熱い魂に接してみてください。

茶の本(講談社バイリンガル・ブックス)

アジア主義者の岡倉天心の主著です。天心は横浜の貿易商の家に生まれ、子供のころから英語に親しんでいたこともあって、流麗な英文を書きます。

じつは日本文より英文のほうが得意だったようで、逆に岡倉の日本語の散文を読むと不自然な感じがします。

これはこの時代の人たちに共通して見られる傾向といえるでしょう。

新渡戸稲造も英文は見事ですが、日本語の散文の名手とはいいがたいのです。

その岡倉天心が44歳のときに発表したのが「茶の本 The Book of Tea」です。

本書は茶道についての本ですが、茶道を通じて日本文化を世界に認めさせたいという天心の思いが強く表れているように感じます。

天心は「西洋と東洋」という枠組みで世界を認識する傾向が強く、「西洋」よりも「東洋」のほうが優れているという確信をもっていました。「西洋」がまさっているのは音楽だけだ、と人に語ったと伝えられています。

そんな天心ですから、茶道の入門書として本書は適切ではないかもしれません。むしろ、本書から学ぶべきは、英語を駆使して自らの文化を積極的に主張していく天心の胆力と語学力なのです。

私も一時期、岡倉天心の英文にハマり、ノートに天心の英文をまるまる書き写したりしたこともありました。いまでも天心の英文は好きです。

また本書の翻訳者は浅野晃といって、戦前は共産党として活躍したあと右翼に転じるなど思想的振幅の激しい生涯を送ったひとです。戦後は大学教授として教壇に立ち、後進の育成に力を注ぎました。

この浅野の翻訳もなかなかの名文です。天心の英文と合わせて熟読すれば英語の理解を深めるのに大いに役立つでしょう。

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