不気味な表情でこちらを見つめるくまのぬいぐるみと、傍で本を読む少女が描かれている。
くまのぬいぐるみのホラー小説!?
ホラーの定番といったら、髪が伸びる日本人形や今にも動き出しそうなフランス人形ではないか。
ふわふわの愛らしいぬいぐるみが主役であるなら、ホラーが苦手な私でも読めそうだ。
『くますけと一緒に』。思わずクスッと笑えるようなタイトルにも興味を惹かれ、私はこの一冊を手にとった。
両親を亡くした女の子とくまのぬいぐるみの物語
主人公の成美は小学4年生の女の子。
両親を亡くした後、母親の親友の裕子さんに引き取られる。両親からの愛情を感じられずに育った成美は、周囲となじめずに『変わった子』扱いをされる。
そんな成美といつも一緒にいるのがくまのぬいぐるみ、くますけだ。成美にとってくますけは、ただのぬいぐるみではなく意思をもった存在であり、親であり親友でもある。くますけにだけは、日常の出来事を報告したり悩みをさらけだすことができるのだった。
両親は喧嘩の原因をいつも成美のせいにした。成美はそんな両親がいなくなればいいと思っていたので、亡くなった時でさえ悲しいという感情はなかった。ただくますけが側にいてくれれば充分だった。
だが成美はふと恐怖を感じ始める。自分が願ったことにより、両親は事故に遭い亡くなったのではないか?そして、それを叶えてくれたのはくますけなのではないかと。
私も子どもの頃、ぬいぐるみが大好きで毎晩一緒に眠っていた。お気に入りの子には成美と同じように名前をつけたし、いつかぬいぐるみが話し出してくれないかと本気で願ったりもした。そう願うのは自身が寂しい時や、不安を感じた時だったかもしれない。ぬいぐるみは一番の理解者であり、自分を攻撃してくることは決してしない。
それと同時に自分の中にある『負』の感情もまた、彼らには見抜かれてしまう。成美の中にあった、両親がいなくなればいいと願う『負』の感情。
でも、実の両親に対して決して抱いてはいけない気持ちなのだという自身への戒め。この葛藤を一人では抱えきれなくなった結果、成美はくますけの中にもう一人の自分をつくりあげていったのだろう。

幸せになる勇気がもてない少女
成美を引き取った裕子さんという女性は、子どもに恵まれなかった為、親友の子である成美と暮らせることに心から喜びを感じていた。
そして成美もまた裕子さんが大好きだった。裕子さんは、唯一くますけと成美のことを引き離そうとしないし、くますけのことを家族の一員として大切に扱ってくれた。
裕子さん一家となら幸せな生活が送れる予感を感じながらも、ある不安を抱き始める。
もしも成美が裕子さんを嫌いになってしまう時が訪れたら、大好きな裕子さんを両親と同じ目に遭わせてしまうのではないか。くますけは成美の為なら、成美を傷付ける存在を許さないからだ。
そこで成美は自分のせいで裕子さんを傷付けてしまう前に、家出を決意するのだった。
両親からの愛情を充分に受けられないまま独りになってしまった成美。子どもにとっては一番の、そして何があっても唯一の味方であるはずの両親から否定され、認めてもらえなかった辛い日々。それでも、子どもは親のことを好きでいなくてはいけないという呪縛に囚われている成美。
私自身も、親は絶対的な存在であった。その為、親の期待に応えられなかった時は自分を責めたし、両親の顔色を伺いながら発言や行動したりしていた頃もあった。
そのため、この物語を読み進める中で成美に対して『もっと甘えたらいいのに』『子どもなのに気を遣いすぎ』ともどかしい気持ちになる反面、どこか自身の子ども時代を重ねてしまう場面が何度かあった。
成美の周囲に対して異常に気を遣ってしまう癖や、甘えることができなくなってしまった理由が、そうすることでしか自分を守る術がわからなかったからなのだろうと感じた。
愛情を素直に表現できない親との関係
ところで、成美の両親はほんとうに成美を愛していなかったのだろうか?
会社勤めの父親は昇進したことにより、毎晩帰りが遅くなった。成美の面倒を全て任される母親。父は成美が学校で描いてきた絵にも全く興味を示さない。それを見かねた母が父を非難する。
対して父は、小学4年にもなって成美がくますけを手放せないのは母の教育がきちんとしていないから。愛情が足りないからだと母を罵る。
夫からだけでなく先生からも責められ八方塞がりの母親。そのため母は成美に対してくますけを捨てるようキツく言ってしまう。
成美にとって一番大切なくますけを邪険にする両親から、成美の心はますます離れていってしまう。
両親の喧嘩の原因は、自分のせいなのではと考えたり、自分さえいなくなればいいと考えてしまう子は少なくないだろう。それゆえ成美が創りあげた想像の中に現れる両親もまた、成美に酷い言葉を放つし、大切なくますけをいじめる。
でも母の親友である裕子さんが成美に言った言葉は真実だと思う。「あなたのママは、間違いなくあなたのことを、愛していたのよ」
成美の母親もまた、愛情を表現する方法がわからなくなってしまっていたのだろう。夫婦仲のこじれが、成美への非難に変わってしまった。本当は愛したかったはずなのに。
成美が意を決して挑んだ家出は、ほどなく失敗に終わった。裕子さん夫婦と本当の家族として暮らす毎日がこれから始まるであろう。物語は明るい未来を匂わせながら終盤に入っていく。
まとめ
ここまでは人間の心の闇や不器用さが軸となっており、ホラー要素がないように感じるが、最後にかつて裕子さんの相棒であった猫のぬいぐるみ『なんなん』が登場する。くますけとなんなんの会話で物語は終結するのだが、エンディングの不気味さがここまでのストーリーを一変させる。
どんなラストが待ち受けているのか、それは実際に本書をひもといて確認してほしい。
『くますけと一緒に』は人と人との向き合い方を考えさせられる一冊であり、誰もが心の中に抱えている自分自身との葛藤を、成美や他の登場人物達を通して感じられる物語だった。文章は会話調で読みやすく、ホラー、ファンタジー、ヒューマンなどさまざまな要素が詰まっている。くますけと成美の今後の日々を想像してしまう、読んだ後にも余韻の残る作品であった。


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