日常に溢れる闇ハラと生きていく社会  ~辻村深月さんの「闇祓」を読んで~

書評

 正義と闇(悪)は相反することのようであるが、表裏一体なのではないだろうか?私の勝手な定義だが、正義とは、世の為人の為に自分を犠牲にしても世の中を正しい道へと導く者。一方で闇は、自分の殻に閉じこもり、周囲と調和できずに常に何かに不満を抱えているような状態であると思う。

 しかし、正義を振りかざして自分のやり方や意見を押し通した時、それが集団になれば尚更その正義は人を精神的に追い込み、闇へと向かわせてしまうことも出来得るのだ。
 この作品『闇祓』からは、世の中に蔓延っている「正義」と「闇」について考えさせられた。

人々を闇へと導く神原家

 物語の主人公、原野澪は自他共に認める優等生。澪の通う高校に突如、転校生としてやってきた白石要。彼は無愛想で転校初日から誰とも関わろうとしないのに、なぜか澪のことをいつも見つめてくる。要の視線に初めは恐怖さえ感じていた澪だったが、物語が進むにつれて2人の関係性は変わっていき、要の素性が明らかになっていく。


 第一章はこの高校生2人が中心となっており、最終章で再び登場する構成となっている。 


 第二章『隣人』では元アナウンサーとして活躍していた三木島梨津が、引退後にサワタリ団地に引越しをしてくる。そこで、隣人とのお茶会や息子の学校のボランティアに参加することから、闇は始まっていく。

 『読み聞かせ委員会』というボランティアに参加を決意した梨津は、初めての集まりで自分ひとりが話す相手もいなく、場違いな空気を感じていた。その時隣に座っていた女性、神原かおりに思いきって話しかけてみる。すると神原かおりは初対面からいきなり不躾な質問をしてきたり、梨津の服装を指摘したりとぐいぐい梨津の領域に入り込んでくる。

 後にわかるのだが、彼女こそが闇を振りまく闇ハラ一家の一員である。

 困惑する梨津をその時救ってくれたのが、梨津の住むサワタリ団地のオーナー、沢渡博美であった。彼女には梨津の息子と同じ学校に通う子どもがいて、それをきっかけに博美の主催するお茶会にも誘われるようになった。博美はママ友達の中のリーダー的存在で皆が博美のことを素敵だと口を揃えて言う。また、団地の住人達からもお洒落で洗練されたオーナーとして、羨望の眼差しを向けられていた。


 完璧な人間に対して少しでも嫉妬や妬みを持たない人はいるだろうか?梨津もまた、瑕疵のない博美に対して徐々に自分のプライドを傷つけられていった。そこに闇は静かに入り込んでくる。博美を中心に一致団結しているサワタリ団地の隣人達、そして神原かおりの異様な発言や行動によって、住人達と梨津の心は狂い始める。


 ここから連想したのは、以前ある宗教団体の起こした事件である。信者達の手によって作られた毒物が原因で、多くの人々が亡くなった。信者達にとって、彼らの信仰は間違いなく善であり、信仰することで自身や家族が救われると信じていただろう。

 だが、残念ながら彼らの信仰心こそが悪の結果をもたらしてしまった。人間は決して強くない。その為何かにすがったり、誰かに頼りたくなる気持ちは共感できる。ただそこにずっと身を委ねてしまうと、信仰が洗脳へと変わっていってしまうと思う。彼らはまさに闇に覆われてしまっていたのにも気付かず、自分達は正義であることを疑いもしなかったのだろう。

 第四章の『班長』もやはり集団で闇ハラを成し遂げていく。闇ハラとは作者の創りだした造語であり『自分の事情や思いなどを一方的に相手に押し付け、不快にさせる言動や行為のこと』である。(本書より抜粋)


 主人公は小学5年生の草太。同じクラスの虎之介は勉強も運動も得意なクラスでの中心人物だった。ただ虎之介は我儘だし暴力を振るうので、草太は彼が苦手だった。そんな矢先、神原二子が転校してきた。そう、あの神原かおりの息子である。二子は虎之介の問題ある行為を皆んなで改善していき、良い班をつくっていこうと主張を始める。初めのうち草太は、ニ子に対して真面目で責任感の強い子なのだという印象を抱いているだけだったが、日に日に元気が無くなっていく虎之介を心配するようになる。ニ子の正義感による行動は行き過ぎなのではないかという思いに駆られていった。


 虎之介はいじめる側だった悪であり、それを止めたニ子が正義である、と一見筋が通っているような構図だが、草太は次第にニ子によって変わりつつあるクラスの雰囲気に違和感を感じ始める。


 学校、会社等さまざまな場所でいじめは発生する。これまでいじめを苦に亡くなった方のニュースを何度も目にしてきた。その際加害者側はいじめていたという認識がないことがよくある。


 ニ子がクラスの皆を一致団結させ、動いたことにより、虎之介の心はどんどん闇へと追いやられていった。ニ子はあたかもヒーローであるようなポジションを保ちながら、実のところは虎之介を死に至らしめているのだ。これはもう、正義ではなく悪と言っていいのではないか。クラスメイトもまた、いつの間にか自分達がいじめる側の闇に入り込んでいるとは、気づいていなかっただろう。

ラストで明かされる闇ハラ一家の真実

 最終章ではいよいよ、闇ハラ一家の神原家と冒頭で紹介した澪と白石要との戦いが繰り広げられる。要は実は闇を祓うことを生業としているのであった。第一章で要がいつも澪のことを見ていたのは、澪から闇を祓う為に様子を窺っていたからなのだ。


 この章では、要と神原家との意外な関係性や、神原家が存在するようになった理由等が次々と明かされていく。初めに散りばめられた伏線が回収されていくのがたまらなく快感だ。作者の辻村さんは初めから最後の一ページに至るまで期待を裏切る事なく楽しませてくれる。この高揚感をぜひたくさんの方に体験していただきたい。


 要のおかげで神原家の闇は終結する。しかし、この後の澪と要の会話に安堵は一瞬にして打ち消される。
「ようやく、終わったの?」
「うん、終わったよ。 ー 『神原家』は、」

まとめ

 闇ハラは世に溢れている。本書のエピローグでも闇ハラの例がいくつか挙げられているが、闇に取り込まれる当事者になった時、私達はそれに気づくことができるのだろうか?要も言っているように接触しない事が一番だが、まずは自分の考えをしっかりと持つこと。そしていろいろな角度から物事を考察してみる癖付けを日頃から実践してみると良いのではないだろうか。


それともう一つ。


 時折自身の影を観察してみることを忘れずに。闇を振り撒いている人の影はゆらゆらと揺れているそうだから。

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