3分で名著解読 水野弘元「仏教用語の基礎知識」を読む

哲学

仏教は私たち日本人の生活に大きな影響を与えている宗教です。

私たちは葬儀などの仏事を営むだけでなく、知らず知らずのうちに仏教的死生観や自然観を身につけているのです。

普段、そのことを意識することはまれですが、仏教について知識を深めていくと、私たちが仏教的世界に生きていることを実感するようになります。

今回は、仏教理解のために非常に役立つ名著を紹介します。水野弘元著「仏教用語の基礎知識」です。

・仏教に興味はあるがよく知らない
・どこから理解していけばいいかわからない
・哲学理論としての仏教に関心がある

こんな人たちにおススメしたい名著です。まずは著者の水野弘元氏について見ていきます。

水野弘元氏

水野弘元氏(1901~2006)は有名な仏教研究者です。曹洞宗系の駒澤大学の総長もつとめました。

著作も仏教に関するものが多いですが、原始仏教を研究するために必須の知識であるパーリ語の文法書や辞典の著者でもあります。

とくにパーリ語の辞典はすばらしい業績で、日本語でかつ廉価で入手できる辞典としてパーリ語学習者にとってなくてはならぬツールとなっています。

「仏教用語の基礎知識」は、長年、仏教研究に勤しんできた著者による懇切丁寧な説明で、仏教にはじめてふれる人でも理解しやすいように配慮がなされているのです。それでは本書の内容を見ていきましょう。

本書の構成

本書は8章で構成されており、項目は以下の通りです。

第1章 仏教
第2章 三宝
第3章 三科
第4章 三法印、四法印
第5章 縁起説
第6章 四諦説
第7章 修道論
第8章 煩悩論

まず第1章において、仏教とは何ぞや、という基本的な部分から始まります。

仏教とは「仏の教え」であり、「仏陀によって説かれた宗教」である。

「仏教用語の基礎知識」 p19

という簡潔な説明から始まり、では「仏」とは何か、「仏陀」とは何か、という形で話が進んでいきます。

基本中の基本から説明してくれるので、仏教について何も知らない読者でも安心して本書をひもとくことができます。

仏教がインドで生まれ、教団の分裂を経てその中から大乗仏教の運動が生まれ、大乗は中国・朝鮮半島・日本へと伝播し、スリランカや東南アジアには上座部仏教(小乗)が伝わった歴史的経緯も本書には説明されています。

仏教は長い歴史と広大な地域での受容の違いがあるため、時間的・空間的伝播の経緯についても基礎的な知識がないと理解しにくい点があるからです。

本書をよく読めば、仏教の全体像がわかるようになっています。

難解な仏教用語が理解できるようになる

仏教用語はいかめしい漢語が多く、そのことが仏教を近づきがたいものにしている大きな原因だと考えられます。

例えば、「仏陀」は「Buddha」の音をそのまま漢字であてたものであり、意味は「目覚めた人」なのですが、漢字の「仏陀」からはその意味は読み取れません。

このようなサンスクリット語の音をそのまま漢字で当てるやり方は仏教用語でよく目にします。「波羅蜜」は「paramita」の音訳ですし、「菩薩」は「bodhi-sattva」の音訳です。「優婆塞」は「upasaka」で男の在家信者のこと、「優婆夷」は「upasika」で女の在家信者のことです。

このような音訳と翻訳が混合しているのが仏教用語なので、この翻訳姿勢の不統一が難解というイメージをもたれる大きな原因です。本書は、その点についても丁寧に説明していますので、初心者が仏教を学んでいくうえで非常に便利なのです。

ひとつ注意点としては、本書に採録されている用語は、原始仏教から初期大乗仏教までのものだという点です。中国や日本の仏教のものは取り上げていないそうです。著者は2つ理由をあげています。

一つには仏教の基礎は何といっても原始仏教から初期大乗までの間にあって、これを十分に心得ておけば、仏教の用語や教理の主要なものは一通り尽くされ、それが中国や日本の仏教の用語や教理の基本をなしているからである。二つにはインドの中期以後の大乗仏教や中国以来の仏教諸宗の教義は極めて複雑多岐であって、本書には到底これを収めることができなかったからである。

同上 p5

あくまで本書は「基礎知識」なのですが、しかし、本書の基礎知識があれば仏教については十分だと思います。

これ以上は専門家の領域で、興味がある方はさらに他の著作にすすんでいけばいいのではないでしょうか。

まとめ

私が仏教に興味をもったのは、はじめは哲学的興味からでした。思想としての仏教に関心があったのです。

それまでは自分の家の宗派などもまったく知らず、仏教は非常に遠い存在でした。

ちなみに我が家は浄土宗であり、法事で僧侶が「南無阿弥陀仏」と唱えていたのは知っていましたが、それ以上の関心はなかったのです。

いざ仏教を調べてみようと思い立つと、とたんに途方にくれました。あまりに膨大な入門書があるため、何から手を付けていいかわからなかったのです。

そんなときに手にしたのが本書でした。

「基礎知識」と題名にあるとおり、まさに仏教の基礎についてこれほど簡潔にまとまった著作はほかにはありません。仏教に興味をもった方に自信をもっておススメします。

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