大学書林の「四週間」シリーズは、外国語を学ぶ教材として有名です。
今回は、シリーズ屈指の名作といっていい古川晴風「ギリシャ語四週間」をご紹介します。
この本が取り扱うのは、現代ギリシャ語ではなく、古典ギリシャ語です。ソフォクレスやプラトンの世界です。
日本での需要も決して多くはないと思いますが、哲学や歴史に興味がある方はぜひ一度手に取っていただきたい。他人にお勧めしたくなる名著なのです。
さっそく内容を見ていきましょう。
四週間シリーズの傑作
「四週間」シリーズは、大学書林が発行している語学書で、多くの語学ファンに愛されてきました。
一定の年代以上の方々なら、この四週間シリーズで外国語の基礎を学んだのではないでしょうか。ラインナップもなかなか豊富です。
英語はもちろん、フランス語やドイツ語、イタリア語、スペイン語、ロシア語、オランダ語、ハンガリー語、ラテン語、ペルシア語、中国語、朝鮮語などさまざまな言語にアクセスできます。
現在では語学のテキストもさまざまな種類が出版されており、この四週間シリーズもその歴史的使命を終えた感があります。
しかし、そのなかでも指折りの名著が「ギリシャ語四週間」なのです。
さまざまな古典ギリシャ語のテキストがある現在でも、この「ギリシャ語四週間」の価値は少しも減じていません。
ぜひ安心して本書に取り組んでほしいと思います。以下にその特徴をいくつかご紹介しましょう。
ギリシャ語四週間の魅力
古川清風著「ギリシャ語四週間」の総ページ数は466ページです。
「序」に述べられているように、本書があつかうギリシャ語は紀元前5世紀から4世紀のアッティカ方言です。
哲学者のプラトンやクセノポン、歴史家のトゥキュディデスなどの文章が該当します。
本書の構成を見てみましょう。
本書の構成
まずはギリシャ文字の習得から始まります。ギリシャ文字は全部で24文字、さらに私たちにとってもまったく知らない文字ではありません。数学ですでにお目にかかった文字ばかりです。
その点、アラビア文字やデーヴァナーガリの習得とはまるで違います。気息記号の説明もありますから、読み飛ばさずにじっくり読んでください。
そのあとは動詞の活用、名詞の曲用という順序で進んでいきます。最初はそれほどの困難もなく勉強していくことができると思います。
ただ、古典ギリシャ語が難解な理由は、活用や曲用の複雑さもさることながら、きわめて融通無碍な構文にあります。
多少、活用や曲用に慣れてきたといってもギリシャ語本文を読めるようにはなりません。ここが難しいところです。
フランス語やドイツ語なら、学習が進むにつれて少しずつ読めるようになってきます。このあたりが一番楽しいときです。
しかし、古典ギリシャ語はそうではありません。いつまでやってもカンタンな一文を読み解くのにも骨が折れるときがあります。
古典ギリシャ語の感覚が学習者の中に芽生えていないと、いつまでたってもプラトンを読むことはできません。
そこで重要になるのが練習問題による反復です。この「ギリシャ語四週間」が他の古典ギリシャ語のテキストよりも優れているのが、この練習問題の豊富さなのです。
豊富な練習問題と解答
本書に収められている練習問題の数は96問、訳読は56問、さらに長文読解が2問あります。
しかも、そのすべての解答が巻末に収められているのです。
古典ギリシャ語のセンスを養うには、とにかく繰り返し練習問題を解くことと長文に慣れること、この2点が重要です。
「ギリシャ語四週間」が他のテキストより優れている理由がこれです。豊富な練習問題と解答のセットです。独学者にとってこれほどありがたいものはないでしょう。
辞書を入手しよう
外国語を学習するときに必要不可欠なのは辞書ですが、この「ギリシャ語四週間」を学ぶうえで辞書は必須ではありません。
本書に登場する語彙はすべて巻末に載せられています。
しかし、です。やがては辞書が必要になってきます。プラトンの原文にチャレンジするときは辞書なしで読み進むわけにはいきません。
ところが、残念ながら日本語で入手できる古典ギリシャ語の辞書の種類が少ない。
オーソドックスなのは古川清風編著の「ギリシャ語辞典」です。
この辞書のすばらしさは折り紙つきです。日本語で単語を検索できるだけでもありがたい存在です。
プラトンの全作品や新約聖書のすべての語彙は収められていますし、アリストテレスの主要著作の語彙はあらかた収録されているという優れものです。
この辞書があれば原文の読書がずいぶん楽になります。
しかし、問題は値段です。なんと49,500円もします。
容易に手がでる金額ではないでしょう。それでも私はこの辞書をオススメしたい。それほどすばらしい辞書だからです。
古典ギリシャ語の辞書といえば Liddell & Scott ですが、Intermediate を使うにしても Abridged を使うにしても、慣れないうちは使いこなすのが難しいものです。
さらに英語でギリシャ語の語彙を学ぶのは相当ストレスなものです。フランス語やドイツ語を学ぶときとはちょっと違います。
専門の研究者ならいざ知らず、一般人が余暇で学ぶには Liddell & Scott は向いていません。古川清風編著「ギリシャ語辞典」を強く推します。
まとめ
じつは何回もチャレンジしては挫折し、またチャレンジするのを繰り返したのが古典ギリシャ語です。
いまでも古典ギリシャ語をものにした実感はありません。それは私の能力不足のせいですが、チャレンジするたびにこの古川清風著「ギリシャ語四週間」が実に優れた参考書であるのを発見するのです。
初版が昭和33年の参考書がいまもなお愛用されているのには理由があります。これがベストのテキストだからです。
古典ギリシャ語に興味を持った方は、ぜひ本書を相棒にして難解きわまりない古典ギリシャ語の世界に分け入ってほしいと思います。
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