《朗報》 東洋文庫がKindleに登場!

書評

あの東洋文庫がついにKindleで読めます。まさかこの日がこようとは思いませんでした。もちろん、すべてのラインナップではないですが、それでもAmazonで検索すると99件もの作品がヒットします(2020年7月4日現在)。

今後さらに増やしていくかどうか、それはわかりませんが、とにかくKindleで利用できるようになったことをすなおに喜びたいと思います。

今回は、その中からおすすめの作品をご紹介していくわけですが、その前に東洋文庫とは何か、この点を確認していきます。

東洋文庫とは?

平凡社の東洋文庫は、おもにアジアの作品を中心に現在までに850点以上の著作を刊行しています。

1963年創刊ですから、57年の歴史があるわけです。そのラインナップがじつに渋い。

荻生徂徠の「論語徴」などは大変な名著だと思いますが、現在の日本では東洋文庫以外では手に入りません。

「東洋文庫」という名称ですから当然東洋の著作が多くなる傾向にあり、中国、朝鮮半島、日本だけに限らず、インドや中近東の著作が多く含まれているのも特徴のひとつです。

今回、Kindleに登場したのは、およそ850点の一部ですが、その中から特にオススメな作品を選んで紹介します。

Kindleで読める東洋文庫

流行性感冒

いわゆる「スペイン風邪」が流行した状況の報告書が本書です。

内務省衛生局がものした本書は、コロナウィルスに翻弄される現代日本人にとってアクチュアルな価値をもっているといえます。

当時の報告書ですから文体は口語体ではなく文語体です。文語体に慣れていない人は少し読みづらいかもしれません。

しかし、スペイン風邪の詳細な報告書である本書は、私たちにとって貴重な教訓を含んでいます。

スペイン風邪では、感染の第一波は感染者が多いわりに死亡率が低かったのに対して、第二波は感染者は比較的少なかったものの、死亡率は第一波よりも高くなっています。こういった事実も本書によって知ることができます。

流行性感冒 「スペイン風邪」大流行の記録 (東洋文庫)

入唐求法巡礼記

9世紀に唐に留学した円仁が著したのが本書です。

845年の武宗による「会昌の廃仏」についての記述もあり、当時の中国社会を知るための貴重な資料です。

全2巻で文語体です。ここは好みの分かれるところでしょう。私は文語体が非常に好きですが、難しいと感じる人も少なくないかもしれません。

入唐求法巡礼行記 (1) (東洋文庫 (157))

懲毖録

豊臣秀吉の朝鮮出兵を朝鮮側からまとめたのが「懲毖録」です。

朝鮮出兵当時、李氏朝鮮で枢要の地位にいた柳成竜が書いた名著の日本語訳です。

欲をいえば原文の漢文も掲載してほしかったところですが、それは贅沢というものかもしれません。

本書を読めば、日本軍が押し寄せてきた当初、朝鮮側にはまったく何の準備もなく、長年の太平に慣れて対応らしい対応もできずに日本武士団の跳梁にまかせた状況がよくわかります。

懲ひ録 (東洋文庫)

近世畸人伝・続近世畸人伝

江戸時代の文人・伴蒿蹊の名著です。様々な人々の伝記という構成で、中江藤樹や契沖、荷田春満などの有名人をのぞけばほとんどが無名の人物です。

原念斎の「先哲叢談」と同じようなスタイルですが、「先哲叢談」と違って取り上げられる人物が市井の人々である点に大きな特徴があるでしょう。

本書にはさらに三熊思孝による「続近世畸人伝」も収められています。

近世畸人伝・続近世畸人伝 (東洋文庫0202)

ミリンダ王の問い

本書は、古代インドに君臨したギリシャ人の王メナンドロス(ミリンダ王)と仏教の聖者ナーガセーナの対話編です。

ギリシャ的世界観とインド的哲学の邂逅という点で興味深い作品です。

東洋文庫では全3巻の構成ですが、重要なのはこの第1巻といっていいかもしれません。

有名な「車輪のたとえ」で無我の哲学を説くシーンもこの第1巻におさめられています。

ミリンダ王の問い―インドとギリシアの対決 (1) (東洋文庫 (7))

まとめ

平凡社さんには、このままさらに多くの作品をKindleで購入できるようにしてもらいたいものです。

また、はなはだ個人的な希望ですが、名著である岡崎文夫「魏晋南北朝通史 内編」の姉妹編である「外編」をぜひ出版していただきたい。

これは今回の趣旨と関係のない話ですが、ぜひこの点は強く訴えたいと思います。

平凡社の東洋文庫担当の皆様、なにとぞよろしくお願いいたします。

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