岩波文庫 青シリーズのおすすめ

書評

岩波文庫の帯には5種類の色があります。書籍の内容によって色付けされているわけですが、今回ご紹介するのは「青」帯の作品です。

基本的に古典の部類に入る作品ばかりですので、教養のために目を通しておいて損はありません。

なるべく読みやすい作品を選んで紹介していきます。

とりあえずこれだけ読んでおけば大丈夫という作品群です。ぜひ参考にしてください。

岩波文庫の「青」とは

岩波文庫は「青」「赤」「白」「緑」「黄色」など内容によって帯が色付けされています。

「青」・・・哲学、歴史、宗教など
「赤」・・・フランス、ドイツ、イギリス、アメリカなど各国の文学
「白」・・・政治、経済など
「緑」・・・現代日本文学
「黄色」・・・古典日本文学

今回とりあげるのは「青」帯の作品です。私が一番好きなシリーズです。その中からオススメの作品を紹介していきます。

プラトン「国家」

いわずと知れたプラトンの代表作です。上下2巻の大作ですが、読みやすいのでスラスラ読めます。

基本的な構成はいつものプラトン式で、ソクラテスと論敵との問答です。途中からはソクラテスの独白のようになるのもいつも通りの展開です。

本書の本当のテーマは「正義」についてなのですが、途中から「国家」についての考察が主になっていき、あるべき国家像についてソクラテスが熱弁をふるいます。

面白いのは、ソクラテスの理想国家が現代でいえば全体主義国家にほかならないことです。

女性も子どもも共有、芸術家は追放、国のトップは哲学の訓練を受けた者がつくべき、など現実化したら背筋が寒くなるような国家です。

全体主義国家を目の当たりにしている私たちにしてみればプラトンに同意するのは難しいと言わざるをえません。

少なくとも私はプラトンの理想国家に住みたいとは思いません。

それでも、ところどころきらめくような洞察に満ちているのも本書の大きな魅力のひとつです。

ときに同意し、ときにツッコミをいれながら本書をおおいに楽しんでほしいと思います。

クセノポン「アナバシス」

ソクラテスの弟子にしてプラトンの同時代人であるクセノポンの代表作です。

古典ギリシャ語を学ぶと原文読解をすすめられる作品でもあります。原文は簡潔な名文なのです。

もちろん本書の翻訳もすばらしいものです。

内容は、ペルシャ帝国の王位継承をめぐる内紛に巻き込まれたギリシャ人傭兵部隊がメソポタミア地方を放浪の末、ギリシャに無事帰還するまでの記録です。

クセノポンはこの傭兵部隊に参加していたため、ソクラテスの死に立ち会うことができませんでした。


本書は7巻構成で本文が360ページほど、詳細な訳注や人名・地名索引も巻末にあります。

また、ギリシャ軍の道程を記した地図も巻末にあります。

本文を読みながらギリシャ軍の位置を確認する際に地図は便利です。

こういうのを読むと中近東に行ってみたくなるのですが、コロナと政情不安で難しいでしょうね。「アナバシス」を読んで想像するにとどめておきましょう。

ルクレティウス「物の本質について」

本書は古代の唯物論を知るための貴重な史料です。

唯物論はレウキッポスからデモクリトス、エピクロスなどの哲学者によって発展したのですが、その内容についてはルクレティウスの本書によってくわしく知ることができます。

というのも、エピクロスたちの著作はほとんどが失われてしまって断片しか残っておらず、まとまった唯物論の著作としては本書が唯一のものだからです。

原書はラテン語で書かれ、しかも詩の形式だそうですから韻文なのでしょう。

もちろん日本語訳になると詩のリズムは完全に失われて散文になっています。

ですから詩としての美しさはあきらめて内容に注目するしかありません。それでも、本書が残っているおかげで古代の唯物論の概要がわかるだけでもありがたいと思います。

私は別に唯物論者ではありませんが、古代の唯物論は科学的精神の発露でもありますから、その点は非常に貴重に思うのです。

ぜひ本書をひもといて古代の人々と対話してみてはいかがでしょう。

デカルト「方法序説」

「われ思う、ゆえにわれあり」という有名な言葉の出典がこの本です。

本文は100ページ足らずの短いものですので、一日で読むこともできます。

6部構成で、有名な「われ思う、ゆえにわれあり」は第4部で出てきます。

第1部から第3部まではデカルトの学問の経歴、カンタンな自伝にもなっています。

第3部でデカルトが紹介する生活上の3つの格率もなかなか面白いものです。私たちも実生活で実践できる生活の知恵というべきものでしょう。

解説によれば、もともとは500ページを超える大著の序文が本書だったようで、第6部で言及されている「屈折光学」や「気象学」がもともとの書籍の本文だったようです。

いわば方法論を述べた序文だけを切り取って一冊にしたのが本書「方法序説」だったというわけです。

気軽に読めて有益な哲学書というのはなかなかあるものではありません。「方法序説」を強くすすめる所以です。

カント「純粋理性批判」

哲学の高峰・カントの代表作にトライしてみましょう。

上・中・下の全3巻ですから読もうという気にもならないかもしれません。それでも読んでみればなかなか面白く読めます。

「純粋理性批判」が難しいのは、議論の進め方ではなく用語に原因があります。

「アプリオリ」とか「先験的」などの耳慣れない専門用語が障害になるのです。

カントは実直に議論を進めるタイプの思想家ですので、議論についていけないと感じたときは大体カントの用語の意味がよく分かっていないときです。

ですので、そのときは必ず前のページにもどってもう一度用語の意味を確認してください。

その部分にマーカーで線引きしてもいいでしょう。こまめにチェックして読んでいけば意外に理解しやすいのがカントなのです。

その点、ニーチェなどの飛躍の多い文章に比べるとずっと読みやすいはずです。

時間がなければこういった哲学書を読むことはできませんが、一度はチャレンジしてみたい本でもあります。

荘子

全4冊の構成で、第1冊は「内篇」、第2冊は「外篇」、第3冊は「外篇・雑篇」、第4冊は残りの「雑篇」です。

「内篇」は荘子の総論、「外篇」以下は各論といえばわかりやすいでしょうか。

読み物として面白いのは「外篇」や「雑篇」に多いので、そちらだけを楽しむという方法もあります。

「荘子」の原文、読み下し文、現代語訳とこの4冊で「荘子」は十分でしょう。

私個人としては「内篇」は退屈、「外篇」はまあまあ、「雑篇」はおもしろいという感想ですが、もちろん全部そろえておくに越したことはありません。

大乗起信論

本書は大乗仏教の神髄といっていいでしょう。

名著ですが、読み通したという人は意外に少ないのではないでしょうか。

理由は難解だからです。

ただ、本書は原文、読み下し文、現代語訳とそろっていますから、読み通すのはそれほど難しくありません。現代語訳で読めばいいのです。

ただ、それでも内容を理解できるとは限らないのが「大乗起信論」です。

短い作品なのですが、一度読んで理解できる人はいないでしょう。

何度も読むためにも手元に置いておきたい一冊です。

福沢諭吉「福翁自伝」

福沢諭吉の自伝です。

口述筆記ですから福沢の語り口を彷彿とさせる名著です。

江戸時代から明治維新へ、時代の大転換期を生き、まさに「一身にして二生を経る」経験をした福沢の人生は非常にドラマチックで面白いものです。

福沢についての説明は不要でしょうが、この自伝の面白さは古典としての面白さだけではありません。

福沢諭吉のメチャクチャぶりがまたおもしろいのです。

有名な話ですが、友人にフグを鯛の味噌煮だとだまして食べさせた話など、ちょっと考えられないようなエピソードが多々あるのも本書の魅力です。

ただの立志伝ではない人間味あふれる福沢の自伝は、読書の楽しみを存分に味わうことができる名著といえるでしょう。

吉野作造「吉野作造評論集」

大正デモクラシーの旗手・吉野作造(1878~1933)の評論集です。

有名な「憲政の本義を説いてその有終の美を済すの途を論ず」をはじめ、「普通選挙の実施と日本政界の分布」や「現代政治上の一重要原則  一民主主義は何故わるいか一」、「民族と階級と戦争」など20編のエッセイが収められています。

とくに「憲政の本義を説いてその有終の美を済すの途を論ず」は吉野の出世作かつ代表作で必読の文章です。

解説はデモクラシーについての解説なのですが、有名な「民本主義」という言葉もこのエッセイで登場したものです。

吉野の文章は文語体の影響がいちじるしいもので、声に出して読めばリズミカルな名文なのですが、若い人は少々古臭いと感じるかもしれません。

最近では「憲政の本義を説いてその有終の美を済すの途を論ず」の現代語訳も登場しているぐらいですからね。

ただ、リズムに慣れればそれほど気になるものではありません。

読書が好きなひとならまったく問題なく読めるでしょう。

石橋湛山「湛山回想」

戦前を代表するジャーナリストであり、戦後は政治家に転身し総理大臣にまでのぼりつめた石橋湛山(1884~1973)の回想録です。

生い立ちから占領下の政界まで、飾らない言葉で自らの人生を振り返っています。

湛山の人生は近代日本の成長と挫折、そして復興と軌を一にしていました。

本書は私たちに近代日本の歩みについての具体的なイメージを提供してくれます。

明治時代の学生生活、軍隊生活、ジャーナリストとしての活躍、戦中戦後の時代、どれも経験したものでなければ書けない貴重な証言です。

湛山とともに近代日本の歩みをもう一度振り返って理解を深めてみてはいかがでしょう。

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