中国論の白眉!田中信彦著「スッキリ中国論 スジの日本 量の中国」を読む

書評

今回は田中信彦氏の名著「スッキリ中国論 スジの日本 量の中国」をご紹介します。

中国に関係するすべての人に自信をもってオススメする名著です。

摩訶不思議な存在だった中国人を理解するうえで、これほど有益な本もありません。そして、中国人を知ることで、私たち日本人についての理解も深まるのです。お互いの相違点を知れば、両者はうまくやっていけるのではないか、そんな期待を抱かせます。

むしろ、世界で中国人を深く理解できるのは私たち日本人なのではないか、そんな気にもなります。

気になる本の内容をほんの少しだけご紹介していきましょう。

著者の田中信彦氏

田中信彦氏は大手企業のコンサルタントやアドバイザーとして日本と中国で活躍するビジネスマンです。「はじめに」でも書かれていますが、中国との付き合いは40年になろうとする大ベテランです。

その田中氏が中国人の考え方、あるいは「クセ」をロジカルに具体例とともに書いたのが本書です。まったくの謎だった中国人の行動が本書を読むことで少し理解できるようになります。少なくとも、私は読みながら「ああ、そういうことか」と膝を打つことが一度や二度ではありませんでした。きわめて有益な実用書です。

日本人と中国人の特徴を「スジ」と「量」と言い表したのも見事な発明だと思います。本書は、この「スジ」と「量」について具体例とともに解説していくスタイルをとっています。

さっそく「スジ」と「量」について少し踏み込んで見ていきましょう。

スッキリ中国論 スジの日本、量の中国

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「スジ」と「量」

日本人と中国人を比較するうえで重要なキーワードが「スジ」と「量」です。

日本人は「スジ」、中国人は「量」、この切り口から両者を眺めることが重要です。

日本人が中国人に対して持つ不満は、「スジが通らない」ということでしょうし、中国人が日本人に持つ不満は「融通が利かない」ということでしょう。

著者はさまざまな事例をあげながら、「スジ」と「量」の対比によって、日本人と中国人の傾向を浮かび上がらせていきます。

この「スジ」と「量」という切り口はきわめて適切で、中国人の行動原理を説明するのにこれほど適切な言葉もないと思います。

多くの人がなんとなく気づいているものの、はっきり言葉にした人はいない、それが「スジ」と「量」の概念です。

著者は、「社会のクセのようなもの」と呼んでいます。では、それぞれの概念を見ていきましょう。

「スジ」の日本人

日本人は「スジ」が好きです。つまり、「スジ」が通らないことが大嫌いです。

仮に、ある行為が自分の利益にならなくても、あくまで「スジ」を通す場合、尊敬はされないまでも軽蔑されるということはないでしょう。

「あいつはスジを通すやつだ」というのは誉め言葉です。では「スジ」とは何か。

「スジ」とは「べき論」でもあります。「こうあるべき」「仕事はこうするべき」「人前ではこうふるまうべき」。。。このような「べき論」が日本にはあふれています。

中国人が理解できないのが、この「べき論」だと著者はいいます。著者が紹介している例をあげましょう。

大手企業に勤める管理職の男性が自動販売機で飲み物を買うとします。しかし、あいにく小銭の持ち合わせがありません。男性は同僚から130円を借りて飲み物を買いました。オフィスに戻ってから、あるいは後日、男性は借りた130円を同僚に返そうとするでしょう。日本人の感覚では普通の話です。130円とはいえ、借りたものは借りたものです。それは返す「べき」お金だからです。「スジ」の意識の登場です。

この点が中国人にとって理解しがたいところだと著者はいいます。では、中国人はこの事例をどのように判断するのでしょうか?「量」の思考とはどのようなものでしょう。

「量」の中国人

借りた130円の話に関していえば、中国人にとって問題になるのは「借りたかどうか」、ということではありません。

「いくら」借りたか、ここが問題です。

借りた金額が両者にどのくらいの影響力をもつか、ここが論点になります。

結論としては130円など大した金額ではありません。しかも、この話の登場人物は大手企業に勤める管理職の男性です。それなりの高給取りと考えていいでしょう。

ならば、なおさら130円などははした金であって、問題とするにはあたらない、それが中国人の思考です。

「べき論」ではなく、実際の影響の問題です。影響がないなら、それは無視してかまわない。この思考は決して非合理的ではありません。中国人の言い分にも一理あるのです。

ただ、日本人は借りた金は返す「べき」という「スジ」から思考を始めるのに対して、中国人にはこの「べき論」がありません。

もし、借りた金が高額であったなら、中国人とて借りた金は返す「べき」と思考するはずです。

両者に及ぼす影響が大きいからです。

その意味で、中国人の思考はきわめて柔軟です。状況に応じて変えられるからです。日本人は「スジ」にとらわれてチャンスを逸する場合もあるのではないでしょうか。

「面子」も「量」で読み解ける

中国人の思考のクセが「量」であるのはわかりました。この「量」の概念で、いわゆる「面子」というのもより理解しやすくなります。

著者によれば、中国語には「面子が大きい」という言葉があるそうです(p204)。まさに「量」の思考です。大きさは強さと同一視されます。

そして、量を判断の基本に置くということは「現実に、目の前の相手より、自分は強いのか、弱いのか」を常に意識しながら生きていく、ということでもある。ここで面子と「量」がつながる。

「スッキリ中国論 スジの日本 量の中国」  p208

その結果、次のような事態になります。

しかし、中国社会では、お金持ちか否か、権力・権限を持つ人かどうか、社会的な影響力を持つ(自分の意見を通せる)人物かどうか、そういった、その人物の「大きさ」「力の強さ」を重視する傾向が強い。つまり周囲との関係を「違い」ではなく「上下」「強弱」で、言ってしまえば「闘ったら勝つか負けるか」の価値観で理解する傾向が強いということだ。面子は、その強弱、勝ち負けそのものを指す概念と言っていい。いわば「量の勝負」=面子、なのである。

同  p208

常に勝ち負けの価値観のなかで生きなければならない。それが中国人の世界観です。

彼らにとって「面子」が大問題である所以もここにあります。すべては「量」の世界に生きることからくる必然なのです。

お互いの違いを理解する

「スジ」に生きる日本人と「量」に生きる中国人とはとかく誤解がうまれやすいのも事実です。

表面的には正反対の生き方をしているように見えるからです。

しかし、両者はお互いに補完しあえる関係でもあります。

日本人は少し「スジ」にこだわりすぎです。一方の中国人に必要なのは、「スジ」を尊重する生き方です。

表面的な観察にとどまらず、行動原理に思いをいたせば、両者はそれほど理解しあえない関係ではないはずです。

本書にはそのためのヒントがたくさんつまっています。

より深く中国人を理解し、さらに日本人の生き方を見つめなおすためにも、本書は非常に有益なのです。自信をもってオススメします。

スッキリ中国論 スジの日本、量の中国
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