教養のススメ 「ちくま学芸文庫」を読もう

書評

どうせ本を読むならいい本を読みたいですよね。

今回は、「ちくま学芸文庫」からいくつかピックアップしてみました。

哲学・社会学・歴史・言語、さらに物理学・数学まで、幅広いラインナップを誇るのが「ちくま学芸文庫」の特徴です。

人生のなかで、一度立ち止まって自分の周りをじっくり理解したい、そしてその世界とあらためて新しい関係を築きたい、そう感じている方がいるなら、この文庫に手を伸ばしてみてください。

知的好奇心を満足させる素晴らしい出会いがきっとあります。

「ちくま学芸文庫」について

ちくま学芸文庫は、文庫本でありながら学術的な作品も多く収録され、本好きにはありがたい存在です。

とくに思い出深いのはニーチェ全集です。文庫でニーチェの全作品が読めるのか、と感動したことを思い出します。

バタイユやボードリヤールなどもちくま学芸文庫に入っているはずです。ハイデガーの「存在と時間」もありますね。

難解な作品も手軽に入手できるのが魅力でした。これらの作品も紹介したいところですが、いま手元にありません。本棚に収まっているなかからいくつかピックアップしたいと思います。

おすすめ作品

正史 三国志

陳寿の「三國志」の日本語訳です。原文は収められていません。

ただ、原文はネットでも見ることができるので、この翻訳を片手に原文を読んでいけば、さらに理解が深まります。

ちくま学芸文庫版は全8巻で、魏書が1巻から4巻まで、蜀書が5巻、呉書が6巻から8巻までという構成になっています。

これは全訳ですから、陳寿の原文部分はもちろん、裴松之の注も日本語訳されており、参照するうえできわめて有益なものです。

三国志ファンなら、ぜひ手元に置いておきたい逸品でしょう。

古田博司 「朝鮮民族を読み解く」

これは名著です。

朝鮮民族に文字通り全身全霊で没入した著者による愛情あふれるエッセイです。

まず第一章の「韓国人の人間関係」で度肝を抜かれます。こういう実体験にもとづいた韓国人論は非常に興味深い。

もちろん、著者が付き合った範囲での韓国人論であることを忘れてはなりません。

人間は人それぞれです。隣に住む日本人ですら、どういう人間か私たちはよく知りません。所詮他人ですから、最後はよくわからない。まして〇〇人を理解する、というのはちょっと途方もない企てのように感じられます。

他人を知りたいという欲求は、恋愛感情に似ているかもしれません。著者の朝鮮の文化に対する深い学識に驚くとともに、何よりも朝鮮民族に対する深い愛情が感じられます。

朝鮮民族になろうとしてなれなかった、自分が所詮日本人であることを悟った、そんな著者の告白として読むこともできそうです。

ページを繰るごとに、驚きと新しい発見に遭遇する経験というのはめったにあるものではありません。村山智順という戦前のすぐれた研究者の名前を知ったのもこの本でした。

朝鮮半島について知りたい、という欲求をもったなら、つまり朝鮮半島に恋したなら、まず読むべき傑作です。自信をもってオススメします。

増谷文雄 編訳 「阿含経典 1」

阿含経とは何か、というのは少々込み入った話になるので詳述はしませんが、カンタンに言えば、仏教のもっとも古いテキストが漢訳されたもの、ということができます。

仏教の経典は膨大な量が存在しますが、漢訳経典に限って言えばそのほとんどが大乗仏教の経典群であり、後世に新たに作られたものであり、つまりそれらのほとんどはブッダが直々に説いた教えとはまったく無関係のものです。

これを「大乗仏教非仏説」といいますが、ではブッダの思想をより正確に伝えているのはどの経典かといえば、この阿含経の経典群ということになります。

最初期の仏教の姿を知るためには、この阿含経がきわめて重要になるのです。

この文庫本は、阿含経の全訳ではありませんが、重要な部分を抜粋して現代日本語に翻訳したものです。

いわば抄訳ですが、それでも文庫本で全3巻というボリュームです。仏教について本腰を入れて研究しようと思うなら、ぜひ手元に置いておきたい名著といえましょう。

大森荘蔵 「物と心」

日本を代表する哲学者・大森荘蔵の論文集です。

大森哲学の特徴は、主観と客観の二元論にかえて「立ち現れ論」の一元論を主張した、ということができるでしょう。

そもそも、哲学に親しんでいない人にとって、主観と客観の分裂という事態はなかなか理解しがたいものです。

大森荘蔵はこの分裂を退けるわけですから、かえって哲学の素人のほうが大森哲学に親しみやすいのではないでしょうか。

14本の論文が収められた本書は、大森哲学の入門書としてふさわしいものです。

読んでもらえればわかりますが、大森の文章はきわめて明晰で、清潔な印象を受けます。物理学を学んだあと哲学を学んだ経歴も関係があるのかもしれません。

論理的であるとともに、粘着質なところがまったくない透明な不思議な文体です。ぜひこの本から大森哲学に入門してほしいと思います。

花村太郎 「知的トレーニングの技術」

なにげなく本屋さんで手に取って読み始めたらやめられなくなった本です。

こんな名著があったことにおどろきました。まだまだ自分の知らない名著が山ほどあると思えば、毎日が楽しく感じられます。

「知的トレーニングの技術」という書名ですから、一種のハウツーものです。

読書の仕方や帰納法・演繹法の分析術など、書物からいかに効率的に情報を引きだすか、そしてその情報をいかに整理するか、こういったノウハウが紹介されています。

一例として「サイドライン法」という読書法のひとつをあげましょう。これはダイジェクト作成の際に非常に役に立ちます。

文章中の重要なキーワードにサイドラインを引き、ラインを引いた部分をつなげて読む方法です。ノートに書きだしてみればわかりやすいですが、この方法を使えば、思考をすすめるうえで非常に有益です。

実際やってみれば単純なことですが、こういった読書法を知っていれば、より効果的に情報の整理・理解ができるはずです。

実用書として自信をもっておすすめする一冊です。

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