中国近代史を概観する 「リットン報告書」を読もう

中国史

中国近代史を理解するうえで役に立つ本、それが「リットン報告書」だ。

国際連盟の調査団がまとめた報告書のことだが、歴史の授業で聞いたことがあるかもしれない。

1931年の満洲事変に関してのレポートでもある。この「リットン報告書」を精読すれば、当時の中国の姿が彷彿としてくるのである。

もっと言えば、近代化の波をかぶった近代中国の姿が、西洋人の目にもはっきりと捉えられているのが感じられる。

「リットン報告書」から浮かび上がる中国の姿に、しばし注目してみよう。

「リットン報告書」とは

まず「リットン報告書」とは何か。簡単に確認しよう。

ことの発端は1931年(昭和6年)9月18日に起こった柳条湖事件と、その後の諸々の事件、いわゆる満洲事変にある。中国からの出訴を受諾した国際連盟は、イギリスのリットン伯爵を団長とする調査団を編成し、中国・日本・満洲へと派遣、真相の究明につとめた。

そのレポートが「リットン報告書」である。

満洲における日本の特殊権益にある程度理解をしめす内容であったにもかかわらず、日本の世論はこの報告書に激高し、結果、日本は国際連盟を脱退、孤立の道を歩むことになった、と語られることの多いいわくつきの報告書だ。

だが、よく読んでみると、調査団は日本に相当譲歩しているのがよくわかるのである。

決して日本を手厳しく糾弾してはいない。

満洲の特殊な地理的位置、中国の混とんとする近代化、こういった事情について調査団は十分認識していたように見受けられるからだ。

詳細は本書に目を通してもらうしかないが、つぎの2点については注意を促しておきたい。

満洲の地理的事情と中国の近代化の2点だ。

満洲の地理的位置

満洲が中国かどうか、これも興味深い問題であるが、少なくとも満洲が係争の地であったことは確かである。

自己の領土であると主張する中国、南下をもくろむソ連、そして権益をもつ日本の3つの勢力が出会う場所なのである。

日本が満洲に地歩を固めることができた背景には、中国の内乱と革命後のソ連の動揺があった。

「リットン報告書」はその点も十分に認識しており、清朝→帝政ロシア→張作霖→張学良という支配者の交代についても簡潔な説明を与えている。

父親を関東軍に殺害された張学良が日本と手を握るはずもなく、蒋介石の国民党に合流したのちも決して一枚岩になれない国民党内部の事情も本書を読めばよくわかるのである。

中国近代史を理解するために「リットン報告書」は有効なのである。

中国の近代化

辛亥革命は1911年にぼっ発した。その結果、東洋初の共和国である中華民国が成立するものの、実力者の袁世凱の裏切りによって革命は頓挫し、中国は混乱の時代に入った、と普通理解されている。

それは間違いではないが、当時の中国人にとって革命とはどういうものであったか、という点に思いをいたすのは非常に難しいことなのである。

東洋初の共和国、といったところで、共和国がどんなものか想像もできない人々にとって共和国とは一体どんなものだったか。

人権についての観念もなく、ナショナリズムの洗礼も受けておらず、間接民主制についてなど聞いたこともない人々にとって「共和国」という言葉など、まったく自分のなかに対応するものを見いだせないただのラベルにすぎなかったのではないか。

その中国と、孜々として近代化にまい進してきた日本とが出会う場所が満洲だったのである。両者の誤解と反発は必至だったといえよう。

「リットン報告書」にも中国がたどった近代化の歩みについての説明がある。

シンプルにまとめられているが、読者はそこに中国の混乱ともがきを感じることができるはずである。

本書の大半は満洲事変の解明に充てられているが、もっとも重要なのは事変そのものではなく事変にいたる道筋である。本書はそれを考えるための基礎的な知識を提供してくれる。

「リットン報告書」を読むには

「リットン報告書」を読むにはつぎの2つが便利である。

ひとつはビジネス社のもの、もうひとつは角川学芸出版のものである。

角川学芸出版のものは、戦前の外務省が翻訳したものの復刻版である。文章も文語体であるため、慣れない人にはとっつきにくい。

ただ、原文の英文も収録されているため、英語が得意な人はそちらを読むのをおすすめする。

ビジネス社のものは渡部昇一の解説つきで、翻訳はしっかりしている。口語体であるため、こちらのほうが断然読みやすい。

保守論客の渡部昇一の解説はすこし偏っている印象をうけるが、なかなか面白い内容も含んでいる。

ことさら反発するまでもなく、いつもの渡部節と思って読めばいい。

ちなみに英文原文は収録されておらず、ウェブ上で読むことができる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました