おもしろい哲学書が読みたい。部屋にいながらにしてスリルと驚きを味わえる知的な冒険。
そんな思いに応えてくれるちくま学芸文庫で入手できる哲学書のなかから独断と偏見でこれだ!という作品をリストアップした。
有名な作品ばかりだから、一度は目を通しておいて損はないはずである。
まずは香西秀信氏の作品から紹介していこう。
香西秀信「議論入門」
議論で負けないためには、議論について知らなければならない。
本書はそのための最高の入門書といえる。
「定義」「類似」「譬え」「比較」「因果関係」という5つの視点から議論を分析すし、さまざまな作家の文章を実例として引用する。
引用される作家も多士済々。論破力を身につけたいならまずはこれを読んだ方がいい。
バークリー「人知原理論」
最初は面白く読めるが、途中でついていけなくなる典型的な哲学書。
短い文章で構成されているのになぜか話を見失ってしまう。
哲学を専門に学ぶ人用の作品なのかも。
幸い、そんなに高い商品ではないので本棚にあってもいい。いつか読める日が来る。遠い約束を交わしたような気にさせる本である。
ニーチェ「権力への意志」
ニーチェの「権力への意志」は文庫本ではちくま学芸文庫でしか読めない。
文庫本としては少し高額だが、買う価値はある。
ニーチェお得意のアフォリズム集なので、どこから読んでもいいのが本書の長所だろう。
いろいろな問題をはらむ作品なので読むには注意が必要だが、ニーチェの思想を理解するには不可欠の書。
大森荘蔵「物と心」
日本を代表する哲学者・大森荘蔵のエッセイ集。
清潔でクリアーな文章で語られる哲学の世界。
大森の文章を丁寧に追っていくだけで非常に深いところまで連れて行ってくれる。
しかも何のよどみも沈滞もなくごく自然に。
大森が優れた日本語の書き手であることがよくわかる一冊。
ジョルジュ・バタイユ「エロティシズム」
バタイユ著作集でしか読めなかった「エロティシズム」が文庫本で読める。
二見書房版では澁澤龍彦が訳していたが、ちくま学芸文庫版は酒井健氏が訳者である。
若いころ澁澤訳で読んだときは、なぜか読書途中で強烈な不安に襲われ半分ほどでやめてしまった。
理由はいまでもわからないが、ちくま学芸文庫版はどうだろう。
私にとってはおそるおそる手に取る思い出深い一冊。
サルトル「存在と無」
サルトルの「存在と無」も文庫本で読める!本当にいい時代になった。
サルトル全集版を探して神田の古本屋をうろついたあの頃を思い出す。大学の図書館で読んで何を言いたのか皆目わからず衝撃を受けたのもいい思い出である。
哲学用語もまともに知らないころだから当然と言えば当然である。
三分冊だがまとめて本棚に飾っておくに如くはない。
ベルクソン「物質と記憶」
難解で鳴るベルクソンの代表作。何度もチャレンジして挫折したのが「物質と記憶」である。
ちくま学芸文庫版だけでなく、白水社版や駿河台出版社版、最近でた講談社学術文庫版、さらには高橋里美が訳した岩波文庫版まで購入して読んだが、やっぱりよくわからない。
ここまでこだわったのはすべて小林秀雄のせいである。
小林がベルクソンの一番重要な作品と太鼓判をおしたのが原因だ。
ひとついえるのは、ベルクソンの議論が難解になるときは、「観念」と「物」の二元論のもつれを解きほぐそうと格闘しているときではないのか。
この分裂は西洋哲学史のうえでは重要な問題であろうが、その長い軋轢の歴史を知らない私たちには理解しにくいのである。
難解になってきたな、と感じたら思い切って読み飛ばす勇気も必要であろう。
ジョン・R・サール「MiND」
「心」とは何か。この大問題に取り組んだ有名な作品。
ただし、正直あまりおもしろくはない。
「心」について外堀を埋めていく作業という印象で、いつまでたっても核心にはとどかないもどかしさが残る。
この本だけで「心」の本質をつかもうとするのは無理だ。当たり前といえば当たり前だが。
「心」についての議論の整理には使えるかもしれない。
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