古典はおもしろい。
そこには人間の営みがあります。喜びも悲しみも、成功の高揚も敗北の悲哀もあります。
古典から、私たちは人間の姿を感じ取ることができます。
意外なところで、私たちは自分に似通った人間に出会います。友だちに出会うようなものです。
古典の魅力は、そんなところにありそうです。
なつかしい人々に再会することでもあり、新しい友人ができることでもあるのです。今回は、ぜひ読んでおきたい日本の古典を紹介したいと思います。
古典って何それ?おいしいの?
古典はおもしろい
古典はおもしろい、この点は断言しておきます。
つまらないのは学校で習う古文です。古典を読むために古文は必要ですが、古文の読解能力をテストされて順番をつけられては、古典も読みたくなくなるというものです。
たしかに古文は重要です。
しかし、もっと重要なのは古典のほうです。
まずはわからないままで古典にぶつかってみることです。
いまは現代語訳の古典も数多く出版されています。まずは現代語訳の書籍から入っていくのがいいでしょう。漫画から入る道もあります。
読みやすいものから選んで読んでいけばいいのです。
研究者でないかぎり、原文を読まなければいけない理由などありません。そんなドМ根性は捨てて、まずは古典を楽しみましょう。
時間と空間を超越する
今回ご紹介する古典は、奈良平安から江戸時代までの作品です。
書かれた時代も場所もまちまちで、本来なら私たちとは無縁の存在のはずです。
ところが、いざ古典を読み始めると、古典の登場人物などがきわめて身近な存在に感じられるから不思議です。
時代も場所もすべて超越して、私たちのこころに響いてくるのです。
これは考えてみれば不思議なことです。こういう不思議な体験をさせてくれるのも古典の持つ力だといえるでしょう。
おすすめ10選
土佐日記
紀貫之の日記文学です。
土佐(高知県)から帰京するまでのエピソードが収められています。
この作品を読むと、高知県から船で移動するのもなかなか大仕事だったことがわかります。天候に左右されますからね。
「土佐日記」は一種の旅行記ですが、それ以上に興味深いのは、道すがら会う人々が詠む歌を多数収録していることです。
貴族も庶民も関係なく、多くの人が和歌を詠むのです。この点は非常に興味深く感じました。
それほど長い作品でもないので、すぐ読めると思います。一読をオススメします。
枕草子
「源氏物語」と並ぶ日本文学の古典です。
「枕草子」を読むと、清少納言のきめこまやかな感受性がよくわかります。
さまざまな題材の随筆が収められていますが、読んでいて驚くのは、いつの間にかうなづきながら読んでいる自分の姿です。
時代も生活環境も性別もまるで共通点がない清少納言と私ですが、彼女がつづる文章に「わかる、わかる」と相槌を打っている自分に気づくのです。
これこそまさに古典中の古典といっていいでしょう。
源氏物語
言わずと知れた古典文学の傑作中の傑作です。
「世界最古の長編小説」とも呼ばれますね。
光源氏というイケメンがさまざまな女性と浮名を流すというストーリーですが、原文は少し難しい。
これを読みこなすのは至難のわざです。
幸いに、現代語訳もさまざまありますので、まずは現代語訳で読んでみるのがベターです。
原文で読みたい方には、新潮日本古典集成がおすすめです。
方丈記
「行く川の流れは絶えずして、しかも本の水にあらず」方丈記はこの書き出しで有名です。作者は鴨長明。
「枕草子」や「徒然草」と並んで、三大随筆と呼ばれたりしますね。
キーワードは「隠棲」と「無常」です。
短いエッセイですので、すぐに読めると思います。
慶滋保胤の「池亭記」のパクリだというのも有名な話です。
徒然草
作者の吉田兼好は南北朝時代に生きた人です。
時の権力者・高師直のラブレターの代筆をしたという伝説もあります。
「徒然草」は現代でいえばエッセイ集といったおもむきで、全部で243段の随筆が収められています。
第198段のような短いものもあれば、第238段のような長いものまで、さまざまです。
仏教や老荘思想の影響も強いですが、むしろ人間についてよく知っている、いわゆる人間通の文学という印象です。
太平記
鎌倉幕府の滅亡から建武の新政、そして足利尊氏の挙兵から南北朝の動乱までを描く軍記物です。
文章も和漢混交文といったおもむきで、平安文学の古文より楽に読むことができます。
また、太平記は長編のうえ、途中、本編とは関係ない話が挿入されていたりと、一気に読み通す類の本ではありません。
ゆっくりと読書を楽しむ方に向いているといえるでしょう。
ただ、南北朝時代に関心を持つ人にとっては必読書ですから、ぜひ一度目を通してみてはいかがでしょう。
信長公記
織田信長の伝記が「信長公記」です。
著者は太田牛一という信長に仕えた人物ですから、史料としての価値も高い名著です。
信長の有名なエピソード、たとえば父・信秀の葬儀で焼香を仏前へ投げた話や、斎藤道三との初会見、桶狭間の合戦前に敦盛を舞う信長など、こういった信長の人生を彩るエピソードの出典はこの「信長公記」なのです。
1582年の本能寺の変まで、信長の生涯を一望できるすぐれた史料です。
読み物としてもおもしろいため、信長ファンならぜひ手元においておきたい作品です。
奥の細道
松尾芭蕉の名作です。
千住からスタートし、日光や那須を越え、仙台や多賀城、平泉まで北上し、そこから日本海側に抜けて鶴岡、酒田、越後、金沢、敦賀、ゴールの岐阜大垣まで、当時は徒歩ですから、よく歩いたものだと感心します。
訪れた地で詠んだ俳句には、人口に膾炙している有名な句も少なくありません。
たとえば、山形県の最上川の「五月雨をあつめて早し最上川」や、岩手県・平泉の「夏草や兵どもが夢の跡」などがそうです。
ぜひ原典で芭蕉の名句を鑑賞してください。
雨月物語
江戸時代の文人・上田秋成の傑作小説集です。
9つの短編が収められており、現代のジャンルでいえば怪奇小説にあたるでしょうか。
崇徳上皇の霊を供養する西行が主人公の「白峯」や、死んでもなお信義を守る侍をえがいた「菊花の約」、雨宿りさせてもらった家の女との奇妙な運命をえがいた「蛇性の淫」など、どれも面白く読めるものばかりです。
文章も擬古文ですので、それほど難しいものではありません。
楽しく読める小説ですから、ぜひ一度手に取ってみてください。
うひ山ぶみ
上田秋成と同時代の人・本居宣長の作品です。
宣長は「古事記」の注釈書である「古事記伝」を著した大学者であり、この「うひ山ぶみ」は初学者に対する学問の心構えを説いたものです。
つまり入門書です。
人間の成長は人それぞれであるから、その人なりに着実に成長していくことが大切であることを宣長は静かに説いています。
本書を読めばわかるように、宣長の文章はきわめてわかりやすく、かつ流れるような名文であり、たとえ古文について知識を持たない人でも、宣長の意図をしっかりと読み取ることができると思います。
宣長の優れた研究を残した村岡典嗣は、働きながら学問にはげむ日々を送る中、この「うひ山ぶみ」をくりかえし読んだそうです。
現在でも、宣長の「うひ山ぶみ」は、努力する人へのあたたかい励ましとして、読者を奮い立たせる力をもっているといえましょう。
まとめ
古典をひもとくことで、より深く日本について知ることができます。
さらに、人間について認識を深めることも可能です。立体的にものごとを見ることができるようになるのです。
まずは、難しく考えずに古典に向き合ってみてください。古典はおどろくほどやさしく私たちを迎えてくれるはずです。
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